【トピックス】
酵素工学研究会について想うこと
中濱一雄
公益財団法人発酵研究所
酵素工学研究会は、筆者とって興味ある発表が多く、参加者との親交を深めるには程好い規模であるので、毎回、参加するのが楽しみである。
筆者は武田薬品工業株式会社の研究所で抗生物質の微生物変換や医薬合成中間体の酵素法による光学分割に関する研究を担当していた。そのため、千畑一郎博士が開発された固定化酵素によるアミノ酸の製造法、山田秀明先生が開発された酵素法によるL-ドーパやアクリルアミドの製造法など、世界的に見ても非常に高いレベルにある日本の酵素工学にたいへん興味があったので、酵素工学研究会の講演会には積極的に参加してきた。2001年に本研究会の委員を仰せつかり、委員会にて講演会で発表される研究の選定などについて協議した。筆者が推薦して採用された研究の1つは酢酸菌の類縁菌による物質生産に関する企業の研究であり、2003年5月9日に開催された酵素工学研究会第49回講演会で発表された。講演会後の懇親会で千畑博士がご挨拶をされ、その中で当発表に触れられて「酵素工学研究会では、このようなモノづくりに関する発表をもっと増やしてほしい」と要望されるとともにモノづくりの大切さを力説された。千畑博士はバイオリアクターの先達だけあって、そのお言葉はとても説得力があった。
筆者が理事長を務めている公益財団法人発酵研究所は、戦時中の1944年に当時の内閣技術院と武田薬品との共同出資により設立され、以来60年間、微生物株の保存機関として国内外の研究を支援してきた。その後、この業務をNBRCに移し、2003年からは微生物の研究に特化した研究助成事業をおこなっている。発酵研究所は酵素工学研究会とはいろいろとご縁がある。即ち、発酵研究所が保存機関であった時には、本研究会の会員の皆様に微生物株を分譲して研究のお役に立てていただいた。その後、研究助成事業をおこなうようになってからは、本研究会の多くの会員の皆様に助成金を支給して研究に活用していただいている。本研究会の秋講演会 (東日本) ではポスター発表の会場で懇親会が開かれるので、発表者と参加者がビールを飲みながらディスカッションができる。発酵研究所の助成研究報告会ではこのスタイルを踏襲しており、たいへん好評である。
「世界に冠たる日本の応用微生物学」といわれているように、日本の微生物の応用研究は世界をリードしているが、近年、かつてのような活力や勢いがなくなりつつあるように感じる。これは、アミノ酸発酵、核酸発酵のような産業上大きな発酵が少なくなったこと、新規で有望な二次代謝産物が見つからなくなったことなどが原因であると思う。日本の酵素工学は応用微生物学と相まって発展してきた。酵素工学の更なる進歩・発展のためには、新奇なモノ (新規物質、新規素材など) を対象とする、あるいは画期的な方法でモノをつくることを目的とする、きわめてユニークでチャレンジングな研究が望まれる。
近年、日本の競争的資金では「すぐに役に立つ研究」が優先されており、じっくりと腰を据えてチャレンジングな研究ができる状況ではなくなったと聞いている。このままでは日本の科学研究は衰退するのではないかと危惧している。発酵研究所の研究助成では、毎年、膨大な数の応募があるが、選考にあって長期的な視野にたったチャレンジングな研究を優先的に採択していただくよう選考委員にお願いしている。
この酵素工学研究会は、その名のとおり、酵素によるモノづくりを主な対象としており、それ故に、バイオの分野では独自性が高く、存在感が大きい研究会であるといえる。日本の酵素工学の進歩・普及のためにも、本研究会がますます発展することを期待している。