【巻頭言】
中村 聡
東京工業大学名誉教授/酵素工学研究会名誉会員
今さらではあるが、2015年の国際連合サミットで採択された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標が「持続可能な開発目標 (Sustainable Development Goals: SDGs) 」である。17の目標と169のターゲットから構成されるSDGsの達成に向けて、企業・団体等の優れた取り組みを促すために、2017年に「ジャパンSDGsアワード」が創設された。これまでに3回の表彰が行われ、酵素工学研究会会員企業のサラヤ (株) (第1回)、住友化学工業 (株) (第1回)、 (株) ヤクルト本社 (第2回) がその栄誉に輝いている。ところが大学に目を向けると、第1回で金工大・岡山大が表彰されたものの、その後は鳴かず飛ばずの状況が続いている。SDGsのコンセプトの1つに「誰一人取り残さない」があり、本来、産官学をあげてオールジャパンでの取り組みが求められているにもかかわらず、民間企業と大学には温度差があるのが実情であった。
そのような中、英国の高等教育専門誌「Times Higher Education (THE) 」が、大学におけるSDGsの取り組みを指標化し、大学をランク付けすると公表した。これまで大学はSDGsとは無関係と、高みの見物を決め込んでいたが、たちまち多くの大学でSDGsに関する付け焼き刃の議論が始まった。そしてついに、2019年4月に「THE大学インパクトランキング2019」が発表された。SDGsの17の目標のうち大学と関係が深い11の目標に関する取り組みを通して、大学の社会貢献度をランク付けするもので、THEにとって研究力重視の世界ランキング、教育力重視の日本版ランキングに次ぐ“第3のランキング”ともいえるものである。筆者にとっては意外であったが、エントリー大学数は日本が最多であり、総合ランキング100位以内には京大 (48位)、東大 (52位)、慶應大 (91位) の3校が名を連ねたほか、いくつかの目標で多くの大学がランクインした。
国際社会共通の課題に積極的に取り組む日本の大学をアピールする結果となったが、果たして実情はどうであろうか。筆者がこの3月まで所属していた東工大も、「SDG9:イノベーション」で堂々12位の評価を得ている。このSDGは、特許数、スピンオフ企業数、学問領域ごとの教員数などが指標になっており、上位にランクインした東大 (2位)、東工大、東北大 (17位) は、持続可能な技術革新への貢献度の高さを世界に印象づけたことになる。しかしながら、これらの大学はすべて、研究力・社会連携・国際協働において優れた実績を有する国立大学法人の中から選抜され、「指定国立大学法人」に指定された大学ばかりである。したがって、今回SDGsに関する特段の取り組みが評価されたというよりは、日常行っていたことが評価されてのランクインともいえる。実際、東工大の学内において全学をあげてSDGsに取り組んだ形跡は見られない。
SDGsの基本的な考え方に立ち戻れば、民間企業が全社一丸となっているように、大学も全学をあげて取り組み、さらに産官学が協力し合うことで、オールジャパンの取り組みを目指していくことが理想像といえる。今回、関東地区幹事会からの発案で、酵素工学ニュース「特集:会員企業によるSDGsの取り組み」を企画した。酵素工学研究会に所属する大学の研究者に対し、SDGsに関して先達である会員企業での取り組みをご紹介いただこうというのが、今回の企画の趣旨である。幸いにも、味の素 (株)、キッコーマン (株)、サラヤ (株)、ノボザイムズ ジャパン (株)、三井化学 (株) の5社が手をあげてくださった。この企画を皮切りに、SDGsの取り組みが酵素工学研究会に所属する大学にまで波及し、さらにはオール酵素工学研究会による産官学一丸となった取り組みに繋がれば望外の喜びである。

図 SDGsの17の目標 (https://www.unic.or.jp/files/sdg_poster_ja.pdf)