Enzyme Engineering XXII 開催報告
淺野泰久、平川秀彦、梅野太輔、藤井秀美
Enzyme Engineering XXII (第22回国際酵素工学会議) が約四半世紀ぶりに日本で開催された。開催概要について、4人の執筆者にお願いし報告する。まず、本会議会頭を務められた淺野先生には全体総括をしていただき、続いて若手研究者の中から平川、梅野、藤井の3氏に発表内容に関してご報告いただく。
1.Enzyme Engineering XXIIを終えて
(富山県大生物工学研究センター、工学部生物工学科、JST, ERATO 淺野泰久)
第22回酵素工学国際会議は、2013 (平成25) 年9月22日 (日) 〜9月26日 (木) 富山国際会議場およびホテルグランテラス富山 (Banquet) で開催された。参加者は、26カ国からの合計283名 (日本 137名、海外 146名) であった。本会議は、Engineering Conferences International(ECI)が主催する国際会議の中でも最も古い歴史を持つ会議の一つであり、日本では、1981年に第6回、1989年に第10回の本会議が開催されたが、ここ20年間以上開催されていなかった。会議開催を提案した2007年頃は、定期的な日中韓3国の酵素工学会議が順調に運営され、日本の酵素工学を開始された大先輩の方々から次世代にバトンが移されつつあった時期である。幹事会の意向を受け、2007年にカナダのバンクーバー市近郊のHarrison Hot Springsで開催された第19回会議に参加し、運営会議の議長役のMerck社のDr. Jeffrey Mooreに日本への会議誘致を提案した。ECI職員の一人は、それを聞いて賢島の2回の会議で海女さん達が真珠貝を取って見せてくれたことなど、日本の会議はいずれもすばらしい会議であったことを、夢を見るような目つきで語ってくれた。会費以外に、100,000ドルは集める必要があると言われたが、まだ遠い先のことであり現実味が湧かなかった。2007年時点では、まだその他の国の開催希望はなかったが、会期中に新興著しい中国やその他の国が名乗りを上げるかもしれないということだった。2001年のドイツのPotsdamでの会議時に、韓国 (2005年開催) と南アフリカが、激しい誘致合戦を行ったことが記憶に新しかった。運営会議では、ある欧州の委員から2回に1回はアメリカが会議を開催しているが、スキップして2011年の日本開催でも良いのではないかと意見が出た。しかし、アメリカの委員からは、他のバイオサイエンスとの競争もあり、酵素工学を強化してゆく必要があるので、一回おきのアメリカ開催を堅持したいとの反対意見があった。投票になり、アメリカの考え方が支持された。そこで、2009年のオランダ (Groningen) および2011年アメリカ (Colorado) に続いて、6年後である2013年の日本開催が実質的に決まった。普段は愛想の良い欧米の研究者たちが、本部とのやり取りや運営などについて真顔で議論する様子に大いに感心したものである。
富山県、富山市からのまとまった支援が得られそうであること、その他ERATO浅野酵素活性分子プロジェクトの資金を使うことも日本の幹事会で承認を得て、ようやく開催の部分的な資金的裏付けが得られつつあったが、国内外の学会がそうであるように、会議が終わって赤字を出さないことが、一番の難しさであった。さりとて準備に停滞は許されない。2009年から2012年まで酵素工学研究会長として準備させていただいた経緯から、私が大会長を努め、大会副会長に京都大学大学院農学研究科の小川順教授、および (株) カネカ フロンティアバイオ・メディカル研究所の八十原良彦博士に就任していただき準備を進めた。開催までに、Biotrans (ドイツ)、Biocat (欧州)、Gordon Conference (Biocatalysis) (米国) などの主要な会議には、すべて参加し、活発な研究をしている演者のリストを作り、2013年の2月末に招待のメールを出すことができた。幸い、断られるケースはあまりなく、直ちに世界各国の50名近くの有力な研究者から演者として参加したい旨の返事を受けた。過去にEnzyme Engineeringを開催した外国の友人などに相談したところ、招待費用が想定以上に大きく見積もられ、その工面方法を考えて眠れなくなったこともあった。しかし、結果として、多数の有力な演者を招待できたので、地滑り的に参加者が増加し、近年の通常の酵素工学交際会議の倍の300名程度の大規模の会議を開催することができた。そのために、ECIに願い出て、例外的に第2、第3会場でのパラレルセッションとする必要があった。また、ECIが主催者であることから、会議についての考え方から始まって、多数回におよぶホームページの改訂の交渉など、すべてを英語で行い、最終的には深夜のチャット状態でのメールとしなければ解決しないことも多く、担当者の大変な労力が必要であった。
以上振り返ると、このように大きな国際会議を開催するためには、資金面を含めて、すべてにおいて常に一歩前に大きく踏み出す勇気が必要であった。その勇気を与えていただいた酵素工学研究会の皆様に感謝申し上げます。開催のための資金をご援助いただきました公的諸機関、国内外の企業の皆様並びに各企業を紹介していただいた先生方、ECIとの交渉から運営まで担当していただいたMeeting Design社の岩本真紀子様並びにERATO事務局の松田元規博士および板本泰子様、その他随所でご協力いただきました多数の皆様に感謝申し上げます。
最後に、Enzyme Engineeringの運営委員会では、今回の日本での成功を見て、従来のように2回に1回はアメリカで開催する必要は必ずしもないのではないかとの議論が再燃していることを申し添えます。なお、次回第23回会議は、J. Stewart教授を会頭として、2015年にアメリカ・フロリダにて開催予定である。
2.Enzyme Engineering XXIIに参加して (1)
(東大院・工 平川秀彦)
Boenitz-Dulatら (Roche) は、三次構造をもとにした合理的な変異及びランダムな変異を組み合わせることによりグルコースセンサへの利用が期待されているAcinetobacter calcoaceticus由来PQQ依存的グルコースデヒドロゲナーゼの基質特異性を飛躍的に向上させたことについて報告した。Kobayashiら (筑波大) は、炭素-窒素間三重結合の形成というユニークな反応触媒するPseudomonas chlororaphis B23由来アルドキシムデヒドロゲナーゼの触媒機構について報告した。Zhangら (Virginia Tech) は無細胞カスケード反応を効率的にすることを目的として、ドックリンとコヘシンの相互作用を利用した人工メタボロンの構築を報告した。さらに、高価な天然補酵素の代わりに安価な人工補酵素を基質として用いることを目指して、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼをモデルとして、rational design及びdirected evolutionにより人工補酵素を基質とする変異体の取得に成功し、補酵素にかかるコストを1/200に下げられることを報告した。Lutzら (Emory University) は無細胞タンパク質合成系を利用することによりold yellow enzymeの円順列変異ライブラリから高活性変異体のスクリーニングに成功し、さらに変異体では補因子をFMN誘導体に置換することにより触媒反応を操作できることを報告した。Heinzleら (Saarland University) は界面活性剤で処理し、物質透過性を高めた宿主細胞を利用したスクロースからUDP-グルコースやUDP-グルクロン酸への多段階合成反応について報告した。Parkら (KAIST) はDNA結合タンパク質Oct-1との融合タンパク質を構築することにより大腸菌細胞質内で自身をコードする発現プラスミド上に融合タンパク質を提示し、ライブラリスクリーニングに利用できることを報告した。Matsuiら (富山県立大) はトリプトファンの定量に利用されているトリプトファンデヒドロゲナーゼの変異体ライブラリを作製し、スクリーニングにより安定性を向上させた変異体の取得に成功したことを報告した。Hiroseら (天野エンザイム) は3Dリモデリングと質量分析の結果をもとにBurkholderia cepacia由来リパーゼの変異体を作製し、酸性条件下や有機溶媒中での安定性を大きく向上させたことについて報告した。Beauchampら (Michigan State University) は電極に固定化したNAD+アナログを電気化学的に再生させることによりグリセロールデヒドロゲナーゼやマンニトールデヒドロゲナーゼによる物質変換反応を報告した。Peterbauerら (BOKU (University of Natural Resources and Life Sciences, Vienna) ) はピラノースデヒドロゲナーゼのグリコシル化部位に変異を導入し、グリコシル化を防ぐことにより大幅に酵素活性を向上させたことを報告した。Tomitaら (東大) はCorynebacterium gultamicum由来グルタミンデヒドロゲナーゼの結晶構造解析を行い、水分子をリリースする際に活性中心でイミン中間体が形成することを報告した。
3.Enzyme Engineering XXIIに参加して (2)
(千葉大院・工 梅野太輔)
本稿では、第22回国際酵素工学会議における、代謝工学、特に生合成経路の構築に関する研究発表について、紹介する。
本会議では、数多くの人工の代謝経路の報告がなされた。KLJ. Prather (MIT) は、組織的にCoA化酵素を試すことによって、さまざまな基質を3-ヒドロキシ酪酸の合成経路に「のせる」ことができると報告した。たとえばグリコール酸をCoA化すると、医薬中間体3,4-ジヒドロキシ酪酸の生合成が可能になる。ほかにも、2-フェニルエタノール (小柳, 石川県立大)、リシノール酸 (F. Boedes, 仏トゥルーズ大)、1,3-ブタンジオール (中嶋ら, ダイセル)、1-プロパノール (浦野ら、大阪府大)、フェニルアセトニトリル (三木ら、富山県立大)、非天然骨格を持つカロテノイド色素類 (梅野, 千葉大)、C9-C13骨格を持つω-アミノカルボン酸やα, ω-ジカルボン酸 (JW. Song, 梨花女子大, 韓国)、ホモフェニルアラニン (纐纈、協和発酵バイオ)など、さまざまな有価化合物への生合成経路が構築された。
生合成経路のデザイン自由度を決める最も直接的な、入手可能な酵素活性のラインナップの充実度である。変異導入などによる酵素の特異性工学が数多く報告されたが、「祖先型酵素」の試作というアプローチは興味をそそられる。パッチワーク仮説では、生物進化のごく初期においては、ひとつひとつの酵素の特異性が低く、それぞれが類似した複数の反応を触媒していたとされる。R. Kazlauskas (ミネソタ大) らは、データベース上の関連遺伝子のアライメントに基づき、エステラーゼやヒドロキシニトリルリアーゼの「祖先型」遺伝子配列を推定し、その遺伝子を全合成した。これらを大腸菌で発現させると、果たして、それらは活性を有しており、天然/非天然を問わず、数多くの異なる反応を触媒できた。C. Schmidt-Dannert (ミネソタ大) は、最近公開されたキノコのゲノム情報の中から、今まで省みられなかった数多くの二次代謝酵素の遺伝子を組織的に取得できることを報告し、それら遺伝子の機能同定からコンビナトリアル生産までの効率的なワークフローを示した。宮崎 (産総研) は、メタゲノムソースからの新規酵素遺伝子の探索において、未知遺伝子の翻訳シグナルの多様性に対応した発現宿主系の重要性を指摘し、リボソーム工学による大腸菌の翻訳ルールの多様化の新手法を示した。酵素機能の探索 (スクリーニング) においては、Hak-SungKim (KAIST) らの転写スイッチタンパク質をセンサとして用いた酵素反応のハイスループット検出系を報告した。J. Marienhagenら (Jülich研究センター) らは、転写調節タンパク質LysGを用いた同様のスクリーニング原理に基づき、リジンやアルギニンの代謝経路の改良に成功したと報告した。
新しい酵素活性の多くは、類似反応を触媒する酵素の特異性を低減させて創られるのが常であるが、新規機能への特異性を高めないと (もとの活性を消し去らないと)、多くの副産物をもたらす効率の悪い生合成経路ができるのみである。徳力 (ブリティッシュコロンビア大) らは、ホスホトリエステラーゼを、22ラウンドの進化工学によってアリルエステラーゼ活性を向上させ続け、都合100万倍の活性向上を実現した。興味深いのは、ホスホトリエステラーゼ活性は前半世代では保持されつづけるが、その後半世代においては〜積極的な淘汰作業を施さなくとも〜急速低下した (野生型の10,000分の1) という事実である。本会議では、M. Kaltenbach (ブリティッシュコロンビア大) によってその続報が報告された。彼らは上で作られた22世代目の酵素 (アリルエステラーゼ) に対し、こんどはホスホトリエステラーゼ活性への進化工学を続けたところ、12世代で野生型の酵素と同じ特異性を回復した。ここでもまた、後半世代で急速なアリルエステラーゼ活性の低下が見られた。標的活性に対する十分な最適化が副活性の除去というおまけを伴うならば、副活性の少ない優れた生合成パーツは、この方法で創るべきなのかもしれない。
関連する酵素どうしがある空間の中に局在・隔離されていれば、個々の酵素の特異性が低くても、副反応や内在経路とのクロストークを大きく低減できる。C. Schmidt-Dannert (ミネソタ大) らは、ナノケージタンパク質の内側に酵素を閉じ込める技術の確立を目指しているが、紹介されたのは、まだまだ道半ばの悪戦苦闘ぶりであった。代謝経路チャネリングのツールとしては、他にも膜に局在させる手法、Zincフィンガーを用いてDNAの上に関連酵素を並べる手法などが知られるが、いずれも近接効果を創りだすタイプのチャネリングツールである。しかし、中間体を漏出なく受け渡せる連続酵素系は、上下流の酵素の集積形態や、それぞれの反応ポケットの連結形態を工学する必要がある。長棟 (東大) らは、PCNAをScaffoldとすることによって、複数の酵素 (P450とレダクターゼ) の位置関係や量比を自由度高く複合化できることを報告した。
どんなに生合成経路を特異的で効率的なものにし得たとしても、宿主細胞内に内在する代謝経路とのクロストークやリソースの奪い合いは不可避である。本田 (大阪大) は、高熱菌に由来する酵素活性のみからなる多段階な人工代謝経路を大腸菌に構築し、高温処理を行う戦略を紹介した。内在性の代謝酵素群が不活性化するため、導入した経路は細胞内でデザイン通りの機能を示す。各酵素ステップの力価バランス調整や補酵素サルベージ経路の追加導入によって、グルコースからn-ブタノールまでの10余段階の人工経路を効率的に運転できた。V. Sieber (ミュンヘン工科大) は、自然界の解糖系とは全く異なる、わずか4ステップの解糖経路をデザインし、それが実際に働き得ることを報告した。E. Heinzle (Saarland大) は、Triton-Xなどの添加によって、細胞の代謝機能を損なわずに細胞膜の実質的な物質透過性を向上させることができると報告した。C. Wayler (Saarland 大) はトルエン処理によって同様の物質透過性を与えた大腸菌を使い、アミノ酸基質から複雑な天然物 (Luminmide) を合成させる例を紹介した。
本会議では、研究段階にある最新の研究報告に加え、有価化合物のバイオ生産における2つの象徴的な成功例のレビュー講演があり人気を博した。L. Zhao (アミリス社) は、同社が先導してきた有価テルペノイド生合成工学と代謝工学に関する10年の集大成を紹介した。水無 (三菱レイヨン) は、アクリルアミド酵素・発酵生産技術における30年におよぶ改良の歴史を紹介した。どちらも、事業化までの険しく、しかし実りある道程を追体験させる興味深いものであった。
4.Enzyme Engineering XXIIに参加して (3)
(味の素 藤井秀美)
本国際会議は、2013年9月22日から26日までの5日間、富山国際会議場で開催された。日本での開催は、24年ぶり3回目であった。参加者は、酵素工学関連の著名な先生から若手研究員まで幅広く、会場は活気にあふれていた。口頭発表とポスター発表があり、いずれも質疑応答、議論が活発に行われて大盛況であった。
Enzyme Engineering Awardは富山県立大学の淺野教授が受賞された。受賞講演では、アクリルニトリルからのアクリルアミド生産に用いられる菌株のスクリーニング、イノシン酸とグアニル酸の生産に用いるリン酸化酵素の開発、フェニルアラニン定量用のフェニルアラニンデヒドロゲナーゼの発見などについて紹介され、飛躍的な結果につながるスクリーニングの重要性を改めて示された。以降、口頭発表およびポスター発表の中から、いくつかトピックスを紹介する。
ERATO浅野酵素活性分子プロジェクトから、物質生産関連では、安川 (富山県大) が、D-(R)-アミノ酸酸化酵素の改変によって構築した(R)-アミン酸化酵素を用いた、デラセミ化による(S)-α-メチルベンジルアミンの生産に成功した。三木 (富山県大) は、P450とアルドキシムデヒドラターゼを用いたL-フェニルアラニンからのフェニルアセトニトリル合成法について報告した。アミノ酸定量法開発では、亀谷 (富山県大) がアミノアシルtRNA合成酵素を用いた特異性の高いアミノ酸定量法について報告し、様々なアミノ酸定量への適用が期待された。
酵素改変手法では、Stefan Lutz (Emory大) らが、Circular permutationを用いたOld yellow enzymeの改変について報告した。Circular permutationとは、酵素のN末端とC末端を数アミノ酸のペプチドリンカーでつないだ環状ペプチド鎖中のどこか一箇所のペプチド結合を切断することによって生じる、親酵素とはN末端、C末端の位置の異なる変異型酵素を作成する酵素改変手法である。この手法を用いてOld yellow enzymeを改変し、高いエナンチオ選択性を維持したまま、活性が10倍以上に向上した変異体の創出に成功した。アミノ酸置換では得られないような大きな構造変化が期待できる、強力な改変手法であると感じた。
物質生産プロセスの開発としては、Harald Gröger (Bielefeld大) が、水媒体での化学反応と酵素反応を組み合わせたワンポット反応の開発について報告した。Pd触媒による鈴木クロスカップリング反応やワッカー酸化、有機分子触媒によるアルドール縮合、という化学反応と、酵素的還元を組み合わせたワンポット反応によって、様々な光学活性体の合成を可能にした。
酵素工学の応用としては、大柴 (東工大) が酵素の位置特異的修飾による人工アロステリック酵素の開発に成功した。モデル酵素P450に対して、位置特異的にビオチンを結合させて新たな分子認識能を付与することで、標的生体分子アビジンが認識されたときに活性中心の局所構造に変化が起こり、酵素活性が大幅に低下することを確かめた。
筆者の所属する味の素からも、吉良がα-アミノ酸エステルアシルトランスフェラーゼを用いたL-アラニル-L-グルタミン生産について、高橋がホスホケトラーゼの結晶構造解析について報告した。
筆者は本国際会議にはじめて参加したが、酵素工学研究の歴史、現状、今後の展望について学ぶことができただけでなく、この分野に携わる様々な研究者と議論や交流を深めることができ、大いに刺激を受けた5日間となった。企業研究者として、酵素工学の数々の素晴らしい技術のものづくりへの活用をこれから考えていきたい。