【トピックス】

メタン発酵 ー廃棄物処理からエネルギー生産へー

宮 晶子

荏原総研

 

1.はじめに
バイオマスは副産物や残渣、廃棄物などの残渣系バイオマスと、エネルギーや工業材料用途に栽培される植物などのプランテーション系バイオマスに大別される。残渣系バイオマスの中で、農業系、林業系バイオマスは比較的均質であるが、排出時期に偏りがある、少量が分散している、搬出困難な場所で発生する等の課題がある。一方、廃棄物系バイオマスは不均質であるが、大量に発生するので収集は比較的容易である。

わが国の平成16年度廃棄物等排出量は6.05億トン、このうち家畜ふん尿、有機性汚泥、木くず、生ごみ等のバイオマス系廃棄物は全体の55.2%を占めている。バイオマス系廃棄物の循環利用率は現状で16%であり、残りが自然還元 (27%) や、焼却や脱水による減量化 (53%) で処理され、最終処分率は4%である1)

近年、バイオマスからのエネルギー生産が注目されている。メタン発酵は多様な原料に対応でき、特に含水率が高い廃棄物系バイオマスに適した技術である。しかしながら、従来のメタン発酵は廃棄物の安定化処理技術として扱われていたため、必ずしもエネルギー回収率が重要視されていなかった。従来のメタン発酵におけるエネルギー回収率 (原料の持つエネルギーと処理工程に投入するプロセスエネルギーの合計に対する回収されたメタンの持っているエネルギーの割合) は、40%程度であった。すなわち、従来のメタン発酵はエネルギーを投入して廃棄物を安定化・減量化するプロセスであったといえる。

メタン発酵のエネルギー回収率を高めるために、どのような方策があるのか、二つの例で紹介したい。

2.紙ごみのメタン発酵 ー未利用バイオマスの活用ー
わが国の2007年の紙・板紙消費量は31,303千トンで、古紙回収量は23,041千トン (回収率73.6%) であった2)。差し引きすると未回収の古紙・紙ごみは8,261千トンとなる。未回収古紙の中には、トイレットペーパーなどの家庭衛生紙や保管書籍・書類も含まれているが、一般ごみと混合されて廃棄されるものも多い。古紙は精製されたバイオマス資源であり、紙ごみをメタンに転換できれば、メタン発酵のエネルギー回収率の向上が期待できる。

NEDOプロジェクト「バイオマスエネルギー高効率転換技術開発」 (平成14~17年度)3) では食堂残飯とシュレッダー紙ごみを原料として水素・メタン二段発酵プロセスの実証実験が行われた (図1)。本プロセスは前処理工程、可溶化・水素発酵工程 (55℃)、メタン発酵工程 (55℃) から構成され、メタン発酵リアクタからの流出液の一部が可溶化・水素発酵リアクタに返送されている。食堂残飯50 kg/dとシュレッダー処理したオフィス用紙3~5 kg/dを粉砕・均質化し、完全混合型の可溶化・水素発酵リアクタに投入し、固形物の可溶化と水素発酵を行った。投入原水はpHが4.0、有機物濃度は128 g- CODCr /L、組成は炭水化物43%、タンパク質17%、脂質25%であった。全固形物濃度は97.6 g/L、全固形物に占めるセルロースの割合は11%であった。

図1 実証プラントのフロー

メタン発酵リアクタからの返送汚泥で可溶化・水素発酵リアクタ (HRT=4.5 d) のpHを5.8に制御した場合、発生バイオガスの46%が水素、全糖分解率は94%、糖1 mol当り1.7 molの水素生成率が得られた。このとき生成された有機酸は大部分が酢酸と酪酸であり、比率は約2:1 (モル比) であった。メタン発酵工程 (HRT=10 d) を含むプロセス全体ではセルロース分解率74%、メタン転換率75%が得られた。実証実験の結果を基に算出した本プロセスのエネルギー回収率は69.4%、回収エネルギー比率は水素:メタン=1:23となった。水素生産性の高い微生物にとって最も好ましい基質は糖であること、また純粋培養菌を用いた実験でも水素生成率は糖1 mol当り2.3 mol程度4) であることを考えると、滅菌処理をしていない食堂残飯・紙ごみ原料から糖1 mol当り1.7 molの水素が安定的に回収されたことは興味深い。

従来のメタン発酵で用いられている35℃付近の温度領域では、セルロースの分解率は極めて低いことが知られている5)。本プロセスでは55℃にすることでリアクタの加温エネルギーは増加するが、従来はメタン発酵の対象とは考えられていなかったセルロース (紙ごみ) を炭素源として積極的に利用することが可能になった。さらに可溶化・水素発酵工程で固形物の可溶化を促進し、生成有機酸もメタン発酵に適した酢酸・酪酸主体になることから装置の小型化が達成でき、従来法に比べてプロセスエネルギーを大幅に削減できた。

3.コーヒーかすのメタン発酵 ー適正制御による性能向上ー
飲料工場で発生するコーヒーかすはセルロースと脂質の含有率が高く、従来は嫌気性微生物による分解は難しいと考えられていた。脂質は35℃付近では水に容易に分散せず、生分解性が低いが、55℃ではメタン発酵可能であることが報告されている6)。セルロースも上述のように55℃ではメタン発酵が可能なため、55℃処理を採用すれば、コーヒーかすからのメタンガス回収も期待できる。

しかし、中性脂肪の分解産物である高級脂肪酸は高濃度になるとメタン発酵を阻害することが知られている7)。メタン発酵は高分子の有機物を可溶化する過程、可溶化された有機物を酸発酵する過程、メタン生成過程と大きく分けて3つのステップに様々な微生物が関与する複雑な生物反応系である。中間代謝物が次のステップの基質となるだけではなく、濃度によっては上流、下流の反応を阻害する場合もある。

NEDOプロジェクト「生分解・処理メカニズムの解析と制御技術の開発」 (平成14年度~18年度)8) では、分子生物学的・プロセス工学的解析手法を基本技術とした微生物群の適正な制御により、メタン発酵システムの高効率化、安定化することを目的とした。特に、高温メタン発酵においては有機物の可溶化、加水分解、酸発酵を担う酸生成細菌群の知見が乏しく、その機能や役割が明らかになっていないものが多かった。そこで、生ごみ、し尿等を処理する高温メタン発酵汚泥を種汚泥に用い、グルコース、でんぷん、セルロース、大豆製タンパクをそれぞれ単一基質とした集積培養を行い、セルロース分解酸生成細菌Clostridium sp. JC3とタンパク質分解酸生成細菌Coprothermobacter sp. Pを単離した。さらに、セルロース分解細菌、タンパク質分解細菌、デンプンおよびグルコース分解細菌、脂肪酸分解細菌およびメタン生成細菌について、それぞれの16SrDNAを特異的に検出する定量PCRプライマーを開発した (表1)。

表1 定量PCRによる各種微生物菌群の検出8)

コーヒーかすの粉砕物を原水として、有効容積24 Lの完全混合型反応槽で、約1年間高温 (55℃) メタン発酵実験を行った。処理系汚泥に対して定量PCR法で調べた結果、セルロース分解細菌JC3株菌濃度とセルロース負荷との間に正の相関性が認められた。また、メタン生成量が減少する前に水素資化性メタン生成細菌であるMethanoculleus属の菌濃度の低下が認められた。この処理系で、HRT60日の条件で約5ヶ月間安定運転することができたが、HRT40日の条件では安定運転できなかった。この知見から、難分解性セルロースおよび脂質成分を多く含むコーヒーかすの嫌気性処理では、酸生成反応を促進し、メタン生成細菌に対する脂質由来の阻害を防ぐために、酸発酵槽とメタン発酵槽からなる二相式高温メタン発酵システムを考案した。

コーヒーかす・茶かすと余剰汚泥の混合物を原水 (表2) として用い、酸生成槽とメタン発酵槽からなる二相式高温メタン発酵連続処理装置を2系列構築し、連続処理実験を1年5ヶ月間行った。酸発酵槽pHを5.5に制御した二相式系Ⅰでは、メタン発酵槽でのHRT33日で約5ヵ月半安定運転ができ、さらにHRT29日で約3ヶ月間の連続処理できた。高温メタン発酵槽1槽だけの対照系よりHRTで11日短縮、COD容積負荷は1.8倍高くすることができた。メタン発酵槽HRT40日の運転条件では固形物分解率60%、セルロース分解率63%が得られた (表3)。一方、酸発酵槽pHを7.0に制御した二相式系Ⅱでは、酸発酵槽で有機酸生成が促進されたが、メタン発酵槽のHRTを短縮していくと、ガス生成量が急激に減少し、その後回復できなかった。

表2 原水組成8)

表3 運転条件と分解率9)

長期間安定運転できた二相式系Iのメタン発酵槽では、酸生成細菌群とメタン生成古細菌群とも一定菌濃度で保持することができた。これに対して、対照系のメタン発酵槽では、ガス生成活性が減少するまでに酸生成細菌群の菌濃度が一定であったが、ガス生成活性が急激に減少する時期の約1ヶ月前から、水素資化性メタン生成細菌Methanoculleus属の濃度減少が認められた。また、二相式系Ⅱのメタン発酵槽ではガス生成量が急減するよりも前に、水素資化性メタン生成細菌群についてRT-PCR法を利用して定量したRNA濃度の減少が見られた (図2)。

図2 二相系Ⅱのガス発生量とメタン生成細菌のDNAおよびRNA濃度の関係8)

以上のように、メタン生成速度が高く、装置の小型化、高効率化が期待できる高温メタン発酵では安定制御が難しく、一旦発酵不良に陥ると回復に長時間要するという問題があった。本プロジェクトでは嫌気性微生物の菌濃度と活性の定量検出方法を用いて、様々な有機物の高温メタン発酵処理系において運転条件と菌相のポピュレーションダナミックスとの相関を調べ、多くの知見が得られた。微生物反応槽をブラックボックスとして制御するのではなく、分子生物学的な知見に基づくプロセスの適正制御により、メタン発酵のエネルギー回収率の向上が期待される。

4.おわりに
メタン発酵はプランテーション系バイオマス利用のエネルギー生産プロセスに比べて、エネルギー生産性は高くない。しかし、含水率の高い不均質な廃棄物系バイオマスも利用できるため、今後様々な局面に適用が広がることが期待される。

*本稿は、「バイオマスエネルギー高効率転換技術開発」および「生分解・制御メカニズムの解析と制御技術の開発」の一環として、新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) から委託を受けて実施した成果を抜粋してまとめたものである。

文献
1) 平成19 年度版環境/循環型社会白書
2) ㈶古紙利用促進センター統計
3) バイオマスエネルギー高効率転換技術開発 / 有機性廃棄物の高効率水素・メタン醗酵を中心とした二段醗酵技術開発成果報告書、NEDO成果報告書 (2006).
4) Kataoka, N., Miya, A., Kiriyama, K.: Water. Sci. Technol. , 36, 41 (1997).
5) 宮 晶子、片岡直明、長屋由亀、白鳥初美、杉原孝文、池野浩章、下條和也、上田賢志、細野邦昭、別府輝彦: 有機性廃棄物のメタン発酵連続実験、日本農芸化学会2003年度大会講演要旨集、82 (2003).
6) ハオ リンユン、片岡直明、宮 晶子、鈴木隆幸: 油脂含有廃水のメタン発酵連続処理特性、第35回日本水環境学会年会講演集、394 (2001).
7) チュウ 春鳳、李 玉友、宮原高志、野池達也: 中温および高温メタン発酵に及ぼす高級脂肪酸の阻害効果の比較、土木学会論文集、559/Ⅶ -2、31 (1977).
8) 生分解・処理メカニズムの解析と制御技術の開発/ メタン発酵プロセスの高効率化、安定化に必要な技術の開発/ 酸発酵過程の高度制御による有機性汚濁物質の分解浄化・メタン発酵システムの高効率化技術の開発報告書、NEDO成果報告書 (2007).
9) 立澤知子、ハオ リンユン、宮 晶子、片岡直明: 高温メタン発酵処理における固形性有機性廃棄物の2相式処理方法による発酵特性及び効果、第41回日本水環境学会年会講演集、239 (2007).