【巻頭言】

フォーカシング機能を持った産学連携組織

長棟輝行

東大院・工

 

競争的環境の中で世界最高水準の大学を育成し、大学の構造改革を進めることを謳い文句として、昭和24年に新制国立大学として再スタートして以来の56年間の歴史にピリオードを打ち、国立大学が国立大学法人化されて1年が経過した。身分は公務員から非公務員となり、呼び名も教官が教員に変わったが、法人化前と大いに変わったと感じている人もいれば、あまり変わらないと感じている人もいるようだ。法人化に伴って労働安全衛生法が大学にも適用されることになり、企業と比べて安全衛生対策にこれまで十分な投資をしてこなかった過去のつけもあって、同法への対応に多大な予算が必要となっている。国立大学法人の運営のための予算は、法人化後も従来とほぼ同程度の金額が国から運営費交付金という形で交付されているものの、法人化に伴って新たな経費支出が本部レベルでも、また各部局レベルでも発生し、そのしわ寄せもあって予算配分の末端に位置する各教員に配布される研究・教育のための校費が従来の1/2から1/3に激減したところが多いのではないだろうか?そのため、競争的研究資金の獲得や、産学連携による大学への資金導入が今まで以上に求められている。

このような背景のもと、法人化後に各大学における産学連携やTLOなどの組織整備が着々と進められ、大学の研究者の起業支援や、企業が大学と包括共同研究契約を結ぶことにより、一つの共同研究テーマに学内の複数の研究者が参画することを可能にする様々な新しい産学連携の試みも行われている。従来と比べて産学連携を推進しやすい状況になったように思われるが、企業の方からは必ずしもそうではないという意見も聞かれる。大学側が持つシーズや知的財産が実際に応用可能かどうかを予備的に検討する段階でも、産学連携組織を通してコンタクトすると、いきなり最初から契約締結と高額な経費が要求されることが多いため、大学と共同研究しようとする時の敷居がかえって以前より高くなったというご意見である。大学の持つシーズや知的財産といった成果を死蔵することなく社会に還元するために、積極的に共同研究や技術移転を進めることは産学連携の重要な役割ではあるが、研究資金やロイヤリティ収入獲得を追求し過ぎると、健全な産学連携をかえって阻害する恐れもある。

大学で生み出されたシーズや知的財産の有効活用を目的とする産学連携が世の耳目をひいているが、産学連携には研究・技術分野の新しいシーズを生み出し、普及させるという重要な一面もある。酵素工学研究会が、産学連携のもとに生体触媒の固定化技術の開発とその応用・普及に大きな役割を果たしてきたことは、その良い例と言えよう。一人の研究者だけで複雑な問題を解決し、新しいシーズを生み出すことは次第に困難になりつつある。三人寄れば文殊の知恵という諺もあるが、多くの研究者の智恵を結集して困難な問題に立ち向かい、新しいシーズを生み出すというスタイルの産学連携が益々重要になるであろう。そのためには、問題の焦点を絞り、その解決のために必要な智恵と技術を持った産学の研究者が大学や企業の枠を越えて自ずと集まる、フォーカシング機能を持った産学連携のための組織が必要である。

今年から伝統ある酵素工学研究会の会長を仰せつかりましたが、副会長の安達、長谷川両先生のご協力のもと、酵素工学研究会がこのようなフォーカシング機能を持った産学連携の場として発展するように微力を尽くす所存ですので、会員の皆様のご指導、ご鞭撻のほど宜しくお願い申し上げます。